読書記録:消滅/恩田陸【ネタバレあり】

月日が経つのは早いものですね。どうしたってあっという間に過ぎていく。そんな中でまたのめりこんでしまう本に出会えたのでシェアしたい。

 

消滅/恩田陸

舞台は日本の国際空港。サイレンが鳴り響き非常事態が知らされる。非常事態は解除されたのに、空港から出られる人間と出られない人間。出られない側の11人(+1匹)の話だ。とらわれた人々の共通点はなにか。年齢も性別も職業もバラバラ。そんな中でひとつ明かされた事実は、そのうちの1人はAIだった!?そして「この中にテロリストがいるから、全員で協力して探せ」と言いだした。まずAIがいることにびっくり仰天していたのに、テロリストというパワーワードの応酬でもうもはや何がなんだかわからない。一体テロリストはこの集団の中にいるのか。テロは止められるのか。

 

登場人物は11人。人々多すぎてちょっと混乱する。でも特徴をとらえて描写してあるから、名前覚え悪い人でも大丈夫。名前で呼ばれると若干混乱するけど。でも空港から出られなかった不運?な人たちは、結構な特徴がある人達で個性的なと表現されるような人たちだった。平凡な中年女性もいたけど、あんなに特徴がある人達の中だったら「平凡」というのが浮いてみえる気もする。

 

個人的に好きなのは推察力がずば抜けている鳥の巣頭のお兄ちゃん伊丹十時。英語で自己紹介するとき、名前の意味をテンオクロックと伝えているらしい彼。ONE OK ROCK好きのわたしとしてはなんだかテンションあがった。いや、それだけです。ええ。何の意味もないです。

 

さて本筋の話だけれども、こちらは最後まで読むと何の意味もない描写はなかったと気づく。犬の存在。会話中の人の表情。何気なく持っている物。ああそういう意味だったのね、それであなたそんな表情してたのねとか、だからそういう恰好してたんだ、わかったわかったと自分の中で腑に落ちる。うっかり失言しちゃう親父さんだったりね。お母さんの不安も伝わってきて伝わってきて、なんでそんなに不安がってるのよ、あなた犯人なのまさか???と疑問に思うけれど、最後まで読めば分かる。全然違ったわ、話が。絡み合いすぎなのよ(笑)というのが素直な感想。見た目は平凡な市川香子も全く平凡じゃなかった。

 

そういうわけで、続きが気になって次のシーンがどうなるか気になって次から次へとページをめくる手がとまらなかったわけよ。とってもおもしろい小説だった。視点は十時、幹柾、渓だったりところころ変わる。それにしても別件と別件と別件が絡み合いすぎて流石のAIキャサリンでも大変だったみたい。情報量が多すぎてしかも隠されたことも多すぎたので、閉じ込められてる人々が真実を求めてもなかなか真実にたどり着けない。こっちもハラハラだったよ、本当にこの人たち解放されるの?って。

 

ただ人にとって何かを隠すということは難しい。みんななんだかんだで相手のことを注意深く観察して、十時くん以外も解決の糸を見出していく。誰かだけでは気づけなかったことを、1人ひとりが気づいてつなげていく。まあ最後全部のストーリーを読みとったのは十時くん。もちろん視点が多かったから主人公なんだろうけどさ。流れがうまいですよね。まんまとはまりこんでしまった。ああ、そしてベンジーにも触れておかないと。彼はかなりの重要人物なのに少ししか出てこない。謎溢れる彼のことだからきっとわたしも登場人物たちも得ていた情報量は一緒だろう。ただその少ない情報量から溢れ出すほどの頭の良さ。天才。めちゃめちゃ物語のキーだしね!

 

結局残ったのは最初からあったベンジーへの対応をどうするかってことと、新商品の斬新なPRだけ。ベンジーは日本に亡命希望をしているわけではないし、そもそも日本国籍所持してる人間だったってことも分かったから、きっといい方向に進むんだろう。勿論この天才を守ってくれるよね、日本?と煽り気味の言葉を残しておこう。新商品については、いいね!をたくさん押したいレベル。

 

それにしたって言語の壁を取り除くことを消滅(バベル)と呼ぼうなんて粋なセンスだなあ。もともと神の意志に反してバベルの塔を建ててしまったゆえに怒りをかって言葉がバラバラになったのに、その壁を崩すことをバベルと呼ぶなんてなんてこったい。

 

この小説の舞台となる時代は2020-2030年。近未来を意識して書かれたものらしい。もうすぐ手が届きそうな時代なのだけど、現実は小説よりも進んでいるところもあるし、そうではないところもある。おもしろい。

 

空港の中のあんな狭い一室で何が起こるのかざわついていたけれど、解決は一瞬だった。先が見えなくてこのまま閉じ込められたままなんじゃないか、テロに巻き込まれたら死ぬんじゃないかとか色々思った1日は、不運だったのだろうか。

 

凪人が、ここを抜け出した後にはきっと笑って同僚にAIの話をするだろう、でも信じてもらえないだろうという空想を幾度かする。でもそれは本当にその通りで、問題はあっけなく収束して、あとから思えば笑い話になるストーリーになった。

 

だから不運なんかじゃなかったとみんなの代わりに、わたしが言おう。

 

それ友情芽生えてたし。ちょっとずるしようとしてた人にはバチが当たったみたいだし。あの親子も結局は無事に保護されていたから、「でもいいんじゃない、終わり良ければ総て良しだよ、なんもなかったし、予定通りに甥っ子の結婚式も出れそうだし、肉ワンタン麺も食べられそうだし、いいんじゃない、こういう非日常も。」なんて言いたい気分。

 

男の子の不思議な能力だけが謎だったけれども、凪人の悩みを解決するための登場人物だったのかしらとも思う。凪人にも優しい未来が希望的な未来があるよって匂わせるためのね。武道館で男の子と凪人の再会ストーリーもいいなあ。きっとそういうストーリーも、わたしの知らない世界で勝手に進んでるんだろう。マフィアからは全力で守ってくれよな、日本!!!ともう一度煽っておこう。

 

しかしこの1日はあらゆるところで誰かが気をもんでいた。あの空間にいた11人と同じくらいハラハラしていた人たちが大勢いた。それが分かったところで話は終わっていく。最後は自然に日常に戻っていった。でもあんなもんなんだろうな、実際。非日常と日常は隣り合わせで、非日常から一瞬で日常に戻るのよ。非日常にぶつかったらびっくりするのにね。そういった意味でも今回のことは不運じゃなかったとやっぱり大声でいいたい。

 

以上、本日も読んでくださりありがとうございました。