読書記録:フーガはユーガ/伊坂幸太郎【ネタバレあり】

本屋大賞ノミネート作品。春ちゃんが貸してくれたので読みました。思っていた以上に重い話だった。最初からバリバリネタバレしながら書くので、それが平気な方または、読み終わったから誰かと感想共有したいあなた、そうあなたに届いてほしいのです。

 

不思議で切ない?これが?切ない?切ない?ラストはそうだったかもしれないけれど、わたしには吐き気がするほどおぞましい人間模様だったよ。言い過ぎかもしれないけれど、少なくともわたしにとってはそうだった。

 

伊坂さんは暴力的な表現が多めで人が痛ましい事件に合う率も高いのだけれどもなぜか中毒性がある。謎。勧善懲悪でも完全なるハッピーエンドでもないのだけど、中毒性がある。小さな救いしかないのに。いや、その小さな救いが「リアル」だからなのかもしれない。わたしは正直伊坂さんの作品に対しては好みがはっきりと分かれている。作家さんとして好きなのだけど、1回読めばいいかなと思う作品もあるのだ。ただ全部読むけど。

 

そうやって伊坂ワールドの中毒になりながら今回も読み切った。物語は双子の片割れが高杉という人物に自分の過去を話すところから始まる。カメラに映った「入れ替わり」の瞬間。一体これは何なのか、そしてこれはテレビのネタになるのか。その判断のために高杉は彼の話を聞くことになる。

 

わたしは虐待を受けたことがないから、描かれている話が現実にも存在するということがなかなか受け止められない。でもこれは確かにフィクションではなく現実の一端なのだ、ニュースを見る限り。こういうことが今も世界のどこかで起こっているのだ。

 

なぜ人は人を痛めつけられるのか。自分の子どもであっても嫌いになってしまうならば、関わらなければいいのに。父親よ、なぜそんなに執拗にいじめるのだ。母親に任せておけばいいじゃないか。少なくともそのほうが双子の待遇は良くなる。比較論だけど。親は選べないからこの子たちは本当に不運だ。同情を通り越して感情移入してしまうほど不運だ。

 

しかし、彼らは生きることをやめない。その不運の中で一生懸命生きる。そんな2人に与えられた唯一とも呼べる幸運は、誕生日にお互いの場所を交換できるという特殊な能力だった。その能力をしずしずと使って2人は、毒親から解放されるってストーリーならいいけれども、そんな劇的な展開はなくて。成長していくことによって2人は自ら自由を手にして少しずつ親から解放されていく。

 

そうやって生きている人間がいることは分かっている。でもわたしからあまりにも遠く離れた世界で、それを受けとめることが出来ないままストーリーは進んでいく。

 

ただただ早くヒーローが、救いが現れてほしいと祈る。

 

現実はそのまま進む。でも彼らは諦めない。生きていく。年に1度の不思議な力とともに。

 

ワタボコリも学年に1人はいそうな子。どうにかならないものなのか。わたしが救えない世界に生きている彼らはそれでも生きることをやめない。手ごわい。いや、それはそうなのだ。それは嘆くべきところではなく、受け入れていくしかないのだ。世界の盤面は最初から歪んでいるのだから。

 

全然救われないじゃないか。理不尽な世界にわたしは憤る。誰も助けてくれない。結局彼らは2人でやり遂げる。そして終盤に聞き手の高杉にピントが合う。一体お前は誰なんだ?わたしの疑問はラストで解けるのだけれども、あまりにもむなしすぎた。

 

普通に生きているだけの人間に不運と呼ぶにはあまりにも重い事実を背負わせて、ラストが死だなんて。

 

不運を嘆くだけ嘆いたって仕方がない。自分が出来ることを精いっぱい。それが描かれている現実世界だった。そして中身を読んでわかるタイトルの秀逸さ。たしかに風我は優我だった。優我は風我だったともいえる。タイトルだけじゃあ、わかりませんでした。この流れは。

 

年に1度だけ使えるその能力を最大限に行使してやっぱり正義が勝つんだよってとこ見せてほしかったけど、正義のあなたまでもが死んではだめじゃない、と優我には言いたい。しっかし「俺の弟は、俺よりも結構、元気だよ」は泣くじゃないか。

 

全部すっきりするわけではない。でも彼らの最善のラストだ、これは。途中までは運命のシナリオ通りに進んでいたのかもしれないが、抗って抗って抗った結果がこれだ。最初から不運だった。しかし本当に彼らは手強かった。

 

だからこそ双子の生き様がこうやって残っていることが嬉しい。こうやって大勢の人が双子に思いを寄せるから嬉しい。ヒーローはこなかった。でも彼らが生きていたことは幾人もの心に刻まれている。

 

小玉もワタボコリ氏もワタボコリ奥様も、ハルカさんもハルタくんもリサイクルショップのおばちゃんもいい味だしてました。大切な登場人物でした。全然納得はいかないけれど、こういう人生もあるのだと噛み締めて読んだ。双子を愛してくれた人々がわたしも愛おしい。

 

以上本日も読んでくださり、ありがとうございました。