読書記録◎アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎【ネタバレアリ】

アイネクライネナハトムジーク

僕の書く話にしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定、そういったものがほとんど出てこない本になりました。(本書あとがきより)

この本は短編小説だ。そして本人が書いているように、伊坂さんにしては珍しく殺人もおきないし、盗人も出てこない。(わたしはそれも大好きだけどね。)至って普通?な日常生活をきりとっている小説である。そもそも斉藤和義さんから歌詞を書いてくださいとオファーがきたところからこの小説が生み出されていき、結果として恋愛要素の強くなったらしい。

 

そんないくつもの日常がつまっている中でわたしはライトヘビーと名付けられた章が好きだ。美容師の「わたし」とお客の香澄さん。ひょんなことから香澄さんの弟、学くんと「わたし」は電話をすることになって、会ったこともないのに電話をする仲という奇妙な関係が続いていく話だ。顔も知らない相手。でも定期的に電話はしていて、話も弾んで。ただ1つ不思議なのは学くんの仕事が忙しくなる時期は全く電話がかかってこなくなること。学くんが本当に事務職についているのか分からないのだけれども、きっと「事務職」ではないのだろうなあと見当をつける。

 

香澄さんも学くんの仕事の話はあんまりしないんだけど、いたずら心がわいてTVの中継を「わたし」に見せてしまう。香澄さんがいたずらっ子なんだろうなと思う描写がはしばしにちりばめられていたから、すんなりと「そうするよね」と受け止めた。

 

そう、この章は「わたし」と学くんの恋の始まり、恋の軌跡を描いている。誰かの恋のはじまりをこそっとのぞいて、好きなのかもと気づくその瞬間に立ちあうというのがなんだか良いと思うのだ。結局お互いを大切に思っている関係は素敵だと思いをはせることの出来るこの話が好きだ。びっくりする展開だしね。

 

 

お互いに知らぬところで少しずつ関わっている登場人物たちは、言わば「世界は広いが世間は狭い」を地でいく人々だった。『ウォーリーを探せ』のようによく注意して読んでいないと彼らはすっと通り過ぎていってしまう。

 

ひとつの短編として読んでも面白いし、全部通して読めば、全部を読み切ったときに理解できる人と人の絡みににやりとしてしまうだろう。いやしかし人と人との絡みを書くのが本当にうまい方だなあ。

 

どの短編も出てくる人の全部の人生を描いているわけではない。だけれどもその余白でわたしたちはいろいろと想像できるのだ。わたしはとにかくハッピーエンドが好きだし、幸せであってほしいと思うから幸せなエピソードで余白をうめることが多い。その余白もあわせて楽しんでほしい。わたしの大好きな学くんと美容師の美奈子はだいぶちゃんと最後まで書いてあって嬉しい。

 

本日も読んでくださりありがとうございました。

そして新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。